おはんこ日記

映画の感想など

7月に読んだ本。

7月は4冊読んだ。

 

感想が長くなってしまったので、今回は目次付けます。

 

 

まずは、1冊目。

1.長沼伸一郎『現代経済学の直感的方法』

 

経済に疎い自分を何とかしたくて読んだ。
今までそうやって何度も経済の入門書を読んではすぐに内容を忘れてしまうのだけれども…

この本は読みやすいし、図がたくさんあって分かりやすい。
インフレとかデフレとか、円高とか円安とか、基礎のところから、ブロックチェーン・仮想通貨の話まで話題は多岐にわたる。
さらに、世界の経済の歴史から、今後世界経済はどうなっていくのか、という壮大な話にまで出てくる。このままでは未来は明るくないのでは…という未来を描きながらも、希望のようなものまで見せてくれる、いろいろと親切な本だった。
手元に置いておきたい本。

 

2冊目。

2.笙野頼子笙野頼子発禁小説集』

笙野さんは好きで結構読んでいる。

最初に読んだ頃は、「ブスが自分のブスさを武器に戦う」(言い方悪いけど…)という点に衝撃を受けた。
当時(20年くらい前)は、まだ美人でも美人を鼻にかけずに自虐したりして、男性の気分を損ねないことが求められていたし、ましてブスなんてわきまえて小さくなって笑いものになるしかない、みたいな風潮だった。
そんな時代に、堂々「女で何が悪い、ブスで何が悪い」と戦う笙野頼子の小説を知り、目から鱗だった。

今は昔よりも、フェミニズムの存在感は増していると思うし、女性が声を上げやすい時代になっている。
しかし、そんな時代に、笙野さんの小説は「発禁」になっているという…興味深いという意味で面白くはあるが、そう言ってもいられない。

6月の記事で桜庭一樹の書評家批判について文句言ったけど…

ohaginoanko.hateblo.jp

同じような文学の世界(世界というような広いものではなく、狭い世間のようではあるが)余裕のなさを感じさせる。
活字としてこの世に出ることが特権みたいになってしまい、それを禁止しようという動きをする作家や編集者、出版社がいるという余裕のなさというか…
同時に、女性が自由になっているといっても、ある一定の方向の「自由」しか許されていない、という現状を笙野さんの小説自体とともに、この状況が表しているともいえる。

内容は…結構やっぱり政治的に厳しいことが書いてあって、ダメな人は本当にダメだろう。
でも、強烈な個性を持った作家が今という時代に向き合い生きた記録として読むと面白く、読むべき小説と言えると思う。

「質屋七回、ワクチン二回」という作品なんかは、困窮した作者の苦しい生活を書いているのだけど、辛さだけではなくて、軽やかさとかおかしみとかのある、人間の営みが描かれている。
質屋に行くときに気を付けるべきポイント、みたいなものも勉強できる。
私は売れるようなものを持っていないので、役に立つことはないだろうが…

 

3冊目。

3.戸谷洋志 NHK 100分 de 名著 ハイデガー存在と時間』 2022年4月 

笙野さんがナチス支持者と批判していたハイデガーを読む私…読みたかったので。

「存在する」ということについて突き止めた、というか突き止めようとしたのがハイデガー
当たり前に使われる言葉が持つ複雑さについて…というか、存在すると言う私自身の単純ではない在り方のことについて、ハイデガーは書いているようだ。

世人(ひと)…「みんな」という他社に影響を受けることは、誰しも避けられない。
自分が良いと思ったり、悪いと思ったりすることは、「みんな」が良いと思ったり、悪いと思ったりすることと一緒になってしまう。一緒にしたい、と思ってしまう。
それでも、ハイデガーは自分の選択を引き受けることを説いている。

しかし、その思想がナチスへの傾倒に向かってしまったようで…

 

紹介されているハンナ・アーレントハイデガー批判は辛い。
アーレントは、ハイデガーが世人(ひと)…他者に対するマイナスの影響を重要視し過ぎだということを指摘している。
他者への猜疑心から、他社と関わりを持つ術がナチスへのような大きな存在をみんなで持ち上げることしかなくなってしまう。
だから、アーレントは他者の「複数性」を重視し、ひとりひとりが持つかけがえのなさを信じて、関わりを持っていくことを主張したようだ。

でも…この本によると、学生時代、ハイデガーは、裕福な学生たちが多い中で馴染めない思いを持っていたようだ。だから、「みんな」に影響されてしまう人間の在り方に問題意識を持ったのだろう、とも著者は書いている。
そういう話を踏まえると、アーレントの指摘は残酷なんでは?と思ってしまう。

「みんな」が持つ個性、ひとりひとりのかけがえのなさ、とか言われても、そんなかけがえのない人達の中で自分は適応できない(適応できなかった)…という苦しみは増すばかりだろう。
馴染めないけど誰かと関わりたい、という思いがナチスのような「大きな物語」を求めた気持ちは分からなくもない。
もちろん、ナチスを支持したのは最悪で許されないことなのだが…

…長々と書いたけど、ハイデガーが今でいう「陰キャ」だったかどうか、私はよく分かっていない(自分に結び付けて考え過ぎたような…)
とにかく、ハイデガーのことを少し知ることができた本だった。

 

4.李龍徳『石を黙らせて』

高校生の時に集団レイプの加害者になった男が、突然に罪の意識に目覚める話。

結婚する直前に目覚めて、自分の罪を告白することで婚約者や家族が傷つく様を見ると「そんな今更告白せんでも…」とか思う(現実のニュースを見て、とかだったらそんな感想出てこないと思うけど、小説だと思ってしまう)
婚約者は逃げられても、親兄弟は逃げられないからキツイね…

具体的な行いの内容は書かれているものの、本人がよく覚えていないところもあって、あまり生々しくない。主犯ではなくて、流されて…という立場だったのもある。
読みやすくはあるが、読んでいて、いまいち語り手である主人公が「レイプした人」という実感を持てない。
それはどうなんだ?とか思う。

シリアス過ぎない場面も結構あり、元同僚の女や、主犯だった政治家の男、その男が紹介したお坊さん…といった面々とのやりとりはなかなか面白かったりする。
しかし、それは過去のレイプという最低な過去はあるものの、現在の主人公はそれなりの会社で正社員として働いていたのだし、婚約者もいたのだし、それなりに感じの良いコミュニケーションができる人だからなのだろう。

そう考えると、感じ悪かったり、コミュニケーションに困難を持つ人は、常に他人に不快感を与えるという罪を犯し、それ故に孤独を感じる、という罰を受け続けるのだな、と考えてしまった。
(私がコミュ障人間なので、自分に結び付けて考えてしまう…)
罪を犯し、罰を受け続けるコミュ障人間は、この作品の主人公のように贖罪を求めることはできないのだろうか?とか考えてしまった。
(コミュ障を直せば良いのだが…)

詰めの甘いところはあるものの、読んだのは『死にたくなったら電話して』以来だったけど、この作家の作品は好きだな、と思った。

 

長くなってしまったけど、7月は充実した読書ができて満足した月だった。
8月も読んでいきたい。