おはんこ日記

映画の感想など

6月に読んだ本。

半月過ぎてしまい、記憶が薄れかけだけど、読んだ本について書く。

 

①『少女を埋める』桜庭一樹

父の危篤により、主人公は故郷である鳥取を訪れ、見取り~葬儀を終えるまで母や親戚、他の地元の人々と交流する。主人公は父や母との繋がり、今住んでいる場所である東京と鳥取との違いを感じる……というのが表題作「少女を埋める」
という話。主人公はほぼ作者と同じの私小説的な小説である。

この小説に対し、書評家が朝日新聞に載せた書評で作者が「間違い」と断定する記述を行ったことで、作者は抗議活動を行い、さらに「キメラ」という作品を書きそれが載せられている。

確かに主人公の母親が「介護虐待」をしていたという記述は小説内にはない。でも、別の暴力を奮っていたことは書かれている。
というか、主人公が母親に対して表現される思いが悉くマイナスのものばかりで…
書評の件以前の話で、母親のこと思っていたのなら作品もうちょっと何とかならんかったん?という疑問でいっぱいになる。

「母親を傷つけても構わないという覚悟で自分に酷いことをしてきた母親の告発をしています。でも、他人が母親を事実ではないことで傷つけるのは許さない」というスタンスで書評家を責めているのならまだ分かる…けど…
作者はあくまで「母思いの娘」というスタンスで、自分は母親を傷つけていません、というスタンスで作品内では描かれているからわけが分からない。

たとえば「母親から来たメールを見て主人公が衝動的に飛び降りたくなる」という箇所があるんだけど、どういった内容のメールだったのか明かされない。
そのため、主人公を飛び降りさせる内容……ものすごく酷いことを送ってきたという印象だけが残る。私はそうは思わないが、自殺教唆とも思われかねない書かれ方をしている。

「介護虐待」と書評家に疑われることは間違っているから否定するが、自ら「自殺教唆」と疑われるような書き方をすることは、実際のところそうなのだから良いということなのだろうか?
母親のことはどうでも良いんだったらそれで良いんだけど、そうでないのならもう少し丁寧に書いた方が良いと思う。

鳥取は旧弊な悪が残る場所、東京は進歩的で正義のある場所、という単純な対比も多く、そうかもしれないけど、それだけじゃない多面的な見方もあるんでは…?と思ってしまった。実際のところが分からないから何とも言えないけど…

ほぼ自分は正義側というスタンスで書かれたこの作品(「理屈と正論を命綱に」という説明書きからして自分の側に常に正論があるという考えが見える)
自分には合わなかった。

 

➁『影に対して』遠藤周作

最近発見されたという表題作「影に対して」を含む、母との思い出が描かれた作品集。

「影に対して」はフィクション要素もあるが、基本的には私小説的な作品。

①の『少女を埋める』とは違い、遠藤周作は母に対して愛情を抱いている(逆に父に対しては基本冷淡である)
高い理想を抱き、世間とぶつかり、生き難そうな母親だが、それでも遠藤は母の味方となろうとする。
母と引き離されても…

一人っ子で三人だけの家族なのに、両親が不仲で毎夜喧嘩というか母が父に責められて泣いている家に帰らないといけない子供の辛さが本当に辛そうで切ない。

私小説だし、父親や妻側の親戚に対して好意を持っていないことは伝わる文章だが、「少女を埋める」よりも読みやすかったのは善悪ではなく、作者個人の好き嫌いの問題として書いているからだろう。
(それでも、今の時代、私小説を書くのは難しい気がする)

遠藤が西宮時代に母を通して知り合った神父の話も印象に残った。
厳格に神に従い生きていても、誘惑に惹かれて落ちぶれることもある…という話。

 

③『剣樹抄 不動智の章』冲方丁

前作からの続き

ohaginoanko.hateblo.jp

↑に書いたとおり、もともとドラマでNEWSのシゲ(加藤シゲアキ)が悪役である錦氷之介役を演じたというニュースを見て読み始めた。
前作はそれなりに氷之介出てきて、父親との絡みとかなかなか切なかったのだが…

今作はほとんど氷之介出てこなかったので肩透かし。
氷之介が所属する極楽組の話は色々展開したけど、正直極楽組よりも氷之介個人の方が気になるんだよね。
個人で巨悪として君臨できるのはファンタジーで、現実はこの作品の極楽組みたいに組織を作らないと大きな悪事もできないだろうし、氷之介みたいな若者がリーダーなんてできないんだろうけど…

正直、ストーリー自体もあんまり面白いと思えなかった。

ストーリーとは関係ないが、主人公の了助の仲間に鳩という先輩の女の子がいるんだけど、おかんみたいに心配しておせっかいしながら、積極的にスキンシップも取ったりする。それなのに鈍感な了助…
光圀公の奥方である泰姫も癒し系ながら無理やりな理屈で「子を授けよ」と光圀公を誘うし…
男性が何もしなくても女性が誘ってくる都合よい書き方も気になった。

遅くなったし、文句も言ってしまったけど、感想を書けて良かった。
7月も読んでいきたい。