おはんこ日記

映画の感想など

4月に読んだ本。

4月には3冊本を読んだ。

 

1冊目は…

自閉症スペクトラム症の女の子が出会う世界;幼児期から老年期まで」サラ・ヘンドリックス。

自閉症スペクトラム症の女性たちにインタビューした体験談が集められている。

最初は統計についての話から始まるので読みにくいが、いかに女の子の自閉症スペクトラムが診断されにくいかというのが分かる。

正直…ここに集められた声に共感できる部分が多くて、私も自閉症スペクトラムのどこかにいるのかもしれない、と思った(スペクトラムだから端っこも含めたらかなりの割合の人がどこかにはいるはず)今まで自閉症スペクトラム症の話としては聞いたことがない話も結構ある。

ASD自閉症スペクトラムの略)の女性の話って、極端に変わった人か、またはある程度コミュニケーションが取れて普通の人と変わらない人の話を見ることが多い(私の観測範囲が狭いだけかもしれない…)
すごく変わっているわけではないけど、孤立しがち、という中途半端なタイプってあんまり自閉症スペクトラムとして語られていない気がする。
定型発達の人でも努力してコミュニケーションを取ったり、努力して周りと合わせようとしている人は多いから、そんなことを言っても甘えと捉えられる危険があるから言いにくいのかもしれない。

そういう意味で、また他の意味でも、匿名で多くの自閉症スペクトラム症の女の子~女性の話を多く取り上げたこの本は貴重だ。
日本でも未診断だけど、違和感や生きにくさを感じている女性は多いはずだ。私みたいにこの本を読んで共感したり、仲間がいる感覚を感じられる女性も多いかもしれない。
そういう意味で、おすすめの本。

 

2冊目…

「詩の中にめざめる日本」真壁仁

1966年初版発行の本。
多くの詩が収められているが、そのほとんどが有名ではない詩人の作である。
生活に根差した詩や、当時の社会問題を訴える詩がある。

まず、2番目に収録されている浜口国雄(国鉄職員)の便所掃除の詩に惹かれた。
当時の国鉄の駅の便所…めちゃくちゃ汚くて臭くて、床に大便は大便、壁には落書き…という絶望的な状況。文句も言いたくなるだろう…
それでも、きれいに掃除する様子が詳細に書かれていて、最後は爽やかである。

広島の原爆で生き残ったお婆さん(池田ソメ)の詩も好き。
救出された後、死んだと言われて「生きとる 生きとる」と答えるユーモラスさ。

神戸の小学生(村井安子)の詩があり、指導したのが当時先生だった灰谷健次郎(後に「太陽の子」などを書いた児童文学者)その詩は関西弁で素朴な文章ながらキツい内容(今なら絶対に実名で出せない)。犯した罪は消えないという後悔と、そこから人生をどう歩いていくのか…そこまで書かせる厳しさと人間への信頼を感じる。

あと、三野混沌という詩人の農民として働きながら書いた素朴な詩が載っているが、その妻だった吉野せいは後に夫よりも有名な詩人となるようだ(代表作は「涎をたらした神」)

吉野せいについて調べると、貧しいながらにそれなりに楽しみもあった夫とは違い、働き子を育てることだけに必死にならざるを得なかった妻の姿がある。夫と同じくもとは作家志望だったのに、夫だけが詩を書くことができ、自分は詩を書く余裕もない…という妻のどうしようもない気持ちが三野の素朴な詩の裏には隠されているのだと思うと、なんとも言えない気持ちになる…とはいえ、現代の都会で暮らしている私の方が三野混沌よりも明らかに恵まれているのだから、私は三野について何か言える立場にないな。

…最後は変な話になってしまったが、1960年代当時の人々が書いたバラエティに富んだ作品が収められていて面白いのでおすすめ。

 

3冊目…

 

アメトーークの読書芸人で取り上げられていたのを思い出し、読みたくなって読んだ。

1作1作が濃い短編集。
確かな知識、思考の元に書かれているが、読むのは難しくはない。文章が簡潔で読みやすい。
タイムマシン、AI、ロボットたちの国、みたいな親しみやすい題材が多いけど、味付けが面白い。

SFとしての設定も面白いんだけど、人間の描き方もしっかりしている。人間は良く生きるべきである、という倫理観があるので安心できる。
しっかりした倫理観がない小説は面白くならないと言いたいわけではないが、この作品についてはそこが大きな長所だと思う。

簡潔な文章に、面白い設定、引っ掛かりのない人間描写、という全てが無駄なく充実した小説で、読んだときに大きな満足感があった。

…というわけで、読んだ3冊とも当たりで、満足した4月だった。